小塚陽子トーク
自然に人が集まる居心地のいい空間
アートのあるワンランク上の暮らしを創生
アートと街(アルテシテarte cite)を社名に会社を設立して17年。
コミュニティを核とする公共施設・公共空間からスタートし、個人邸のリノベーションまで、アートを視点に居心地のよい、癒しのある空間創りを、女性ならではの細やかな目配りで提案しています。
―― アルテシテとは、どんな思いで設立した会社ですか?
会社のコンセプトにも提示しているように、arte citeとはアートと街。art cityをイタリア語で表記したものです。
イタリア語を使ったのは、イタリアではファッションにしろ、建築にしろ、小さな企業、個人が集まってプロジェクトを実施することが多いと聞き、私自身も身の丈にあった規模で、各分野のプロフェッショナルな方々と連携して仕事をしていきたいと考えたからです。
学生時代は音楽大学の声楽科でオペラを学んでいたこともあり、イタリアには親しみもありました。
アートという言葉は、絵画や彫刻などの美術作品だけでなく、音楽や建築、伝統芸能、食文化を含めた芸術文化全般を指しています。
―― 設立の経緯をお聞かせください?
大学卒業後、最初に就職をしたのは、高級マンション・住宅、国内外の高級リゾートばかりを扱う建設・不動産会社でした。当初は受付嬢として、その後は役員秘書として働きました。
秘書の仕事も充実した楽しいものでしたが、芸術に関わって自ら企画・営業をしたいと思うようになり、アート作品を公共施設やギャラリー、美術館に導入する会社に転職したことが会社設立のきっかけになりました。転職したものの1年は在庫管理などバックヤードの仕事が多く、ただ待っていても企画・営業の仕事はできないと気づき、自ら営業先を開拓したいと提案して、希望していた仕事に就くことができました。
―― 独立を決断されたのは?
国内外の作家の開拓、自社ギャラリーでの展覧会の企画など、個人の裁量に任される部分の多い仕事です。独立する人が多かったことも、刺激になったと思います。
開拓した営業先は公団、行政などの公共空間、商業施設が多かったこともあり、アート作品の導入を提案する際には、人々が集まって居心地がいい場所、癒される空間を創ることが大切だと感じていました。
駅前のプロジェクトでは、作品の設置予定場所を実際に何度も訪れ、歩き、通勤・通学、買い物にその場所を通る人々の動きを見て、空間の中のアートを考えるようになっていました。
まちづくり、まちおこしのシンポジウムなどにも、自分の時間を使って参加し、関係性を築くうち、アートと街をテーマに会社を立ち上げる決断に至りました。根底には、コミュニティ空間の創生がありました。
―― ニューヨークでの暮らしが新たな転機になったと…。
アルテシテ設立後に、結婚し、子どもが生まれ、夫の転勤でニューヨークのマンハッタンで3年ほど暮らすという体験をしました。ニューヨークと言えばアートのメッカ、これはチャンスだと感じて同行したのです。この間も、セーブしましたが、アルテシテの仕事は続けていたので、日米をたびたび往復していました。
マンハッタンは多国籍の人々が集まるダイバーシティです。子どもの学校を通して、さまざまな分野の第一線で活躍する方々と家族ぐるみのお付き合いをする中で、アートが美術館やギャラリーだけでなく、個人の生活の中にもあることを目の当たりにしました。
寄付活動の場として、数多のパーティが開催されます。皆さん、パーティ上手でもありました。
アート作品を扱う会社にいた時から、アートには人を集める力があると感じていましたが、ニューヨークでの体験は、私自身の思いを一層強くするものでした。
―― 現在は、「暮らしデザイン」を提案されていますね。
個人邸のリノベーションも手掛けるようになったのは、帰国後に我が家でパーティをすると、「楽しい!」「こんな風に暮らしたい」「我が家も……」というご要望をいただき、食器を揃えて差し上げたり、テーブルセッティングをご提案したりと始まりました。
K邸では、「多すぎる荷物を何とかしたい」がご要望のスタートポイントでしたが、片づけをする機会に、リノベーションをご提案。ご要望を実現するに留まらず、ワンランク上の暮らしをご提案しました。
日々の暮らしが快適になると、もっとおしゃれに暮らしたいと思うようになるものです。質のよいものは大切にしまっておくのではなく、日常に使う、アートのある暮らしが始まります。
―― 今後の展望は?
私は、太古の昔から火のあるところには自然と人が集まり、温もりを求める心が芽生え、そこからコミュニティが始まると思っています。自然に人が集まる居心地のよい空間を創りたいという思いで、アルテシテの立ち上げ当初から同じ一つのテーマを追っています。
まちおこし、まちづくりにつながる空間提案も、個人邸のアートのある暮らしも、一つひとつていねいに向き合い、育てていきたいと思っています。